新宅智也さんの漆の器


新宅さんは、豊かな山林を擁する中国山地の麓の町、広島県戸河内(とごうち)町で「工房しんたく」を営んでいらっしゃいます。

材料は西中国山地の木(トチ、クリ、ケヤキ、サクラなど)を中心に全て国産材で、製材、乾燥、ろくろ挽き、塗りまで全工程一人でされています。
全工程は丸2年を要します。

まず第一に手に持ちやすいこと、を条件にろくろで挽かれるお椀のデザインはノスタルジックでありながら現代の生活の中でもしっくりきます。
塗りは貴重な国産漆(国内で消費される全量の漆の2%しかありません)の中でもさらに厳選されたものを自ら精製し、溶剤などで薄めることもされないという贅沢な漆を何度も丁寧に塗り重ねられています。

塗膜の強度をただ単に上げるための重ね塗りではなく、素地の表情(木目)を完全には覆わないよう、なるべく活かしながらかつ強度は高く、と細かく配慮されています。
この塗りの工程だけで半年がかりです。
妥協の無い、几帳面な仕事の積み重ねで仕上がった器をたくさんの方に見ていただきたい気持ちです。

【戸河内挽物について】
江戸時代の末期頃に挽物木地師が当地に移り住み、明治33年に木地及び漆塗りの技術が伝えられ、漆器の生産が盛んになりました。
その後、時代と共に衰退し、現在は新宅さんが唯一の後継者となっています。




「工房しんたく」の塗りのお椀ができるまで

①木取り
主に広島・島根の西中国山地の原木を輪切りにし、製作するものの大きさに応じて切り取っていきます。

②③荒刳り
切り分けた材をさらに大まかな形に切り荒刳りを進めていきます。
(大きめにお椀の形に挽きます)
荒刳り完了後、半年以上、自然乾燥させ木を休めます。

④自然乾燥を行うと木がゆがみます。そのゆがみをもう一度、ろくろで挽いて、ゆがみを修正します。

この工程までで1年半を要します。


荒刳りした木地を乾燥している様子
⑤漆塗り
国産の漆をたっぷりと染み込ませます。
底部分には強度を出すために麻布を貼ります。
⑥⑦「塗り」と「とぎ」を何度も繰り返しながら、漆を塗り重ねていきます。

この塗りの工程だけで半年を要します。



「工房しんたく」を訪ねました。

山も川も豊かな戸河内 工房前の景色。
高い山々を遠くに望み、目の前は田んぼが広がっています。
工房裏には研究用の漆の木々が植えられています。

新宅さんとししまるくん 工房内。
木地を挽くためのろくろが2台設置されています。
工房内。
室(むろ)の中で乾燥中の器。
漆掻きはこんな風にするのです。 独特の刃先の漆掻きの道具。



「奥安芸の漆館」平成22年9月オープンしました!

戸河内の中心地に新宅さん自らが古い蔵を改装し、ショップ&漆塗り実演場を作られました。
コツコツと時間をかけて隅々まで丁寧に仕上られ、生まれ変わった見事な蔵が、「奥安芸の漆館」としてオープンしました。


床も入口の建具も全て漆仕上げです。 こちらで作品を販売されます。


階段も漆仕上げです。 2階の漆塗り実演場。
ガラス越しに漆を塗る作業を見ることが出来ます。
蔵の梁に残された文字。
文政十年(1827年)とあります。